はじまりの物語
ルビアレインストーリー
まだ、昼間だというのに薄暗い。
グレー一色に塗りつぶされる街並み。
雨の日は、人々の気持ちも重く沈んで見える。
電車が発車する間際、慌てて駆け降りるサラリーマン。
先程まで座っていた座席の横には忘れていったであろう傘があった。
ごくありふれたビニール傘。透明の。
おそらく日本で最も多い忘れ物だろう。
何かの記事で読んだことがある。
鉄道会社や警察署に届く忘れ物の傘は、年間約30万本以上。
ところが持ち主の元に返る傘は、ごくわずか。
1%にも満たない。
忘れたことに気づいても、500円や1000円の傘を時間をかけて探す人はいないだろう。
透明なビニール傘はたしかに便利だ。
ある意味、どこにでもあるコンビニとドラッグストアが、傘の置き場所がわりになってくれている。
その一方で、なんの気無しに置き忘れるビニール傘とそれに伴う環境問題。
便利さの影には、周りまわって自分たちの首を締め付けるような汚染が少しずつ生まれている。
でも、大事なことはそれだけではない。
傘に限らずファッションにおいて、消費するという感覚に慣れきっている現代。
でも、モノを買い、それを捨てるというそんな行為に多くの人が疲れているようにも見える。
雨の日に使えればいいという消耗品の考え方は人の心も消耗させる。
しっかりした布地の艶やかな傘。
忘れる人は少ない。
置いて出ていこうとしても、気づいた誰かが声をかけるだろう。
使い捨てが前提ではなくものとして大切にできる傘を持ち歩くこと。
汚れにくく、雨の日にも気分の沈まない傘を。
グレー一色の世界になる雨の日に、鮮やかな色の傘が街にあふれる。
きっと街並みが、そして人々の気持ちが違うものになるはず。